犬と猫の話

 柴犬のマックスを飼っている。柴犬は日本古来種の血を引く犬で元々は猟犬としての性格が強いように聞いている。散歩のときでも他の犬を見付けるとうなり声を上げて掛かっていこうとする。一度、近所のゴールデンレトリバーが逃げているのを見付けたので家の庭に入れたら、マックスが怒って3倍位の体格のゴールデンレトリバーに攻撃を仕掛けた。吠えて相手を威嚇しながら背中に噛み付いて、直ぐ離れる。ゴールデンも最初は小さいマックスを相手にしていなかったが、だんだん雰囲気が悪くなってきたので慌ててゴールデンを離した。

 マックスは“一を聞いて十を知る”くらい頭の良いところがある。基本的に人間の物には触ってはいけないことを良く理解している。教育でこれまで2回だけ死ぬほど強く叩いた事がある。

 一度は、洗濯物を落とした時。時々、洗濯物が落ちているのでおかしいとは思っていたが、落ちているだけでマックスが触ったり、いじったりした形跡が無いので風で落ちたのだろうと思っていた。10日に一度とか1月に一度の頻度であった。ある日、家の中からふと外を見るとちょうどマックスが洗濯物を噛んで落とそうとしているところであった。マックスと目と目が合い、私は「このやろう」と大声を上げて、庭に飛び出していった。マックスの目には「殺される!」という恐怖心が現れていた。飛んで行った私はマックスの頭をしこたま叩いた。それからは、洗濯物が落ちることは無くなった。当然、サンダル等をかじることも無い。

 数年前、マックスを散歩中に草むらの中に2匹の子猫が捨てられているのを見付けた。2匹でみゃ−みゃ−鳴いているが、近寄るとシーと威嚇音を発して身構える。子猫ながら中々根性がある。マックスは他の犬に対しては、存在を許さないが、猫には寛大である。猫のお尻の匂いをかぐのが好きみたい。2匹の子猫を見ても、何だろうといった風に近づいていく。誰もその捨て猫に餌をやるわけでもないが、2日目までは比較的元気な鳴き声を出していた。3日目はだいぶ弱っていたが、それでも近づこうとするとシーと威嚇音を発する。子猫とはいえ野生の根性を持っているような気がした。その晩、雨が降り、4日目には鳴き声がしなくなっていた。死ぬ直前まで気力を振り絞って反抗した子猫。人間でもちょっと前までは、死ぬ数日前まで自分で洗濯等の身の回りのこともやり、死期を悟ったら身辺整理してから死の床に付いたといった話を聞いた。

 小学生の頃、柴犬よりも大きい雑種の犬を飼っていた。体は大きいが、散歩のときに他の犬を見付けると回り道して逃げようとするくらい気が弱い犬であった。最後はフィラリア病で腹水がたまった。小学生ながら腹水を抜くには散歩に連れて行って小便をさせた方が良いと思い、散歩に連れ出して、その散歩の最中に倒れて死んだ。死ぬ直前まで私について来た。やはりこの根性は凄いと思った。犬猫に出来ることが人間に出来ないはずはないが、現代の人間は死ぬ直前までこの犬猫以上の気力をもって生きているか。

 二度目は、餌をやっている最中。通常はドッグフードを食べさせているが、時々、ご飯もやる。その時はご飯と野菜と肉をおじや風に煮込んだものを食べさせていたと思う。食器の中でご飯が偏って食べにくそうになると私が食器を揺すって食べやすくしていた。数度、それを繰り返していると、“自分の食べ物を勝手に触るな”とマックスがうなり声を上げ始めた。私とマックスの間の緊張感が高まり、私は手を動かした瞬間に咬まれると感じた。それで私は右手を咬ませる心構えをして、かまれた場合、左手でマックスの首輪を掴み宙吊りにして咬んだ口から手を離させようと考えた。案の定、右手を動かすと咬み付いてきたので咬ませたままで、左手で鎖を持って宙吊りにした。右手は静脈に犬歯が刺さったのか、血がだらだらと流れた。左手でぶら下げたマックスを地面に叩きつけて、しこたま叩き上げた。これは朝の出来事だったが、その日1日マックスは座ることもなく、犬小屋にも近づかずに庭に立ちすくんでいた。これ以降、マックスが人間に反抗することは無くなった。

 猫は基本的に嫌いであったが、子供がミーを拾ってきてから、中々、可愛いと思うようになった。驚いたのはその成長の速さ。手のひらに載るような小さな子猫がどんどん大きくなる。犬に比べて頭の大きさは非常に小さいが、犬以上に賢い。戸を開けて欲しい時など、鳴いて私と視線を合わせて、催促する。私が猫に使われているのである。猫と言えば、最近、○鉄ストアー周辺に群れていた野良猫たちがいなくなった。老人がせっせとキャットフードをその野良猫たちに与えて飼っていたのであるが、当然、野良猫が繁殖するので反感を抱く人間もいるだろう。基本的に反社会的な行為だから。うわさでは農薬交じりの餌を誰かが食べさせたらしい。カラスも落ちていたとの事。これと似たようなことがちょっと前にテレビでも報じられていたが、年寄りだからと言って何でもして良い訳ではない。「年寄りの楽しみを取るのか」と言った発言があるが、社会に甘えるなと言いたい。

 ミーは気に入らないことがあると人を咬んだ。一度、右手を咬まれて歯が刺さった処に穴が開き、手が腫れ上がったので、外科で治療してもらった。同じ咬まれても猫に咬まれた方が被害が大きい。この時も棒を持ってミーを追い掛け回したが、物置の床下に逃げ込んだ。家の中に居ても1週間くらい私の前に顔を見せなかったが、また、徐々に顔を見せるようになった。ミーは尿道結石になって、一度死ぬ思いをしたことがある。尿が出なくなって、お尻の周りはぐちゃぐちゃになり、痛みと熱で瀕死の状態になったが、それでも鳥の羽で出来た猫じゃらしを見ると飛びつこうとするので本能は凄い。

 ミーを追っかけ回した話で思い出したが、いたずら坊主達も追っかけたことがある。学校帰りの小学生達が時々、家のチャイムを鳴らしていく。いつか叱ってやろうと考えていたが、たまたま、チャイムが鳴ったときに玄関の近くにいて、外を見ると小学生達。頭に血が上り、これまでの恨みはらさで置くべきかと、小学生を50m位走って追いかけた。チャイムを鳴らした小学生は逃げたが、同じ班の上級生にいたずらをしないように注意した。それからはいたずらは無くなった。現在の大人は怒らなくなった。電車の中で若者が傍若無人に振舞っても何とも言わない。大人の威厳は喪失した。逆に自分のようにいたずら小学生を追っかける行為の方が世間からはおかしな目で見られるかもしれない。

 ミーのおかげで家中の襖や壁紙がバリバリに引っかかれた。ミーは尿のpH調整作用のある餌を食べないと死ぬ運命にあるので、もうどこかで死んだのだろう。家中ガチャガチャになるのでもう猫を飼う気は無い。しかし、猫も中々可愛いものだと言うことは分かった。犬と猫が結構仲が良いと言うことも分かった。

(2007年4月29日記)

TOPページに戻る